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『ARTPLAZA U_40建築家展 2020 キックオフミーティングvol.1』  2020.10.3(sat)19:30〜21:00

ゲストスピーカー
 守屋 真一氏(micro development design/ADDReC株式会社)
 勝亦 優祐氏(勝亦丸山建築計画)
 遠藤 貴弘氏(大成建設プロポーザルソリューション部)


U_40出展建築家
 尾垣俊夫(尾垣俊夫建築設計)
 児玉敏郁・末安聡子(sower)
 中野晋治(中野晋治建築研究室)

11月3から開催する本展覧会に先駆けて10月3日に「キックオフミーティングvol.1」をオンラインにて配信いたしました。

ゲストスピーカーとして関東在住の若手建築家3名を迎え、今年の展示テーマである「距離感」についてさまざまな切り口からトークを展開しました。

https://www.facebook.com/372111326172814/videos/330893151468397

​以下、U_40出展建築家 山田によるレビューです。

「関東と九州、各々をとりまく距離感にまつわる雑感」

鉄は熱いうちに打てと言われるが第一回キックオフミーティングから2週間程経った今、 製作途中の展示物に占拠された狭い部屋の中で縮こまりながらこのレビューを書いている。 ミーティングの録画画面には、A1カッターマットが何枚も敷き詰められた大きなテーブルや 打合せテーブル、本棚、そしてそれを持ってしても画面の面積の半分は占めるであろう 事務所の床(余白)と共に中津の尾垣氏が映っている。 ついでにガラス扉の前にはマイカーがベタ付けされてさえいる。 これが東京と地方の差か、と溜め息を禁じざるをえない。

そう、このキックオフミーティングはU40建築家展2020の開催に先駆けた 関東の若手建築家と出展する九州の若手建築家によるトークイベントなのだが、 言わば東京とローカルの建築活動の特色を浮き彫りにするということが結論付けられた 予定調和的に終始する議論になるかと思われた。 本来トークショーとしてそれは真っ当なことなのだが、6人の活動内容やスタンスの違いもあり、 議論は良い意味で縦横無尽に空中を飛び回ることとなった。 私の技量ではこのレビューをソフトランディングさせることはおろか、 着地点すらままならないことを先にお詫びしつつ、以下展開していきたいと思う。

ここで関東組御三方を簡単におさらいしておくが、 詳細は録画配信や各々のHPをご覧になっていただきたい。 守屋氏は単に設計だけでなくまちづくりや新規事業開発等のしくみづくりも実践しており、 様々な草鞋を履きながら小さな再開発というキラーワードさらっとを放つような 柔和な語り口の裏でエネルギーに満ち溢れた人であった。 片や勝亦氏はユニット建築家として静岡県富士市と東京の2拠点で設計、 まちづくりの他、シェアハウスまで経営しており、こちらもまた建築家の職能を広げている人物に思えた。 その真価はデザインオペレーションによって一次関数的に減少する建築(不動産)の価値を ふわふわと持続させることにあると非常に示唆的なグラフを用いて述べていた。 遠藤氏はスーパーゼネコンにて大規模ビルディングからイベント用の木製什器まで 幅広く設計されているが、現在の所属はオフィス設計部のようで、 コロナを境にこれからのオフィスの在り方、働き方を誠実に分析していた。 3人とも共通してゼネコンや組織設計事務所を挟んでいるが故に、 巨視的な視点と微視的な視点を瞬時に切り替えるフォーカス能力がとても高いと感じた。

さて、私自身議論に参加できれば良かったのかもしれないが、 様々に飛び交ったキーワード全てをここで列挙することは避けたいし 包括的に語るのも無理が生じてしまう。 そこで気になったものについていくつか述べさせてもらう。

<中小規模開発への眼差し>

ミーティングの途中、これからの設計対象はバーティカルからホリゾンタルへ 回帰していくのではないかとの意見が出たが、 これは遠藤氏の大規模から中規模開発が主流になるといった推察からも極めて示唆的な話である。 それと同時に、私は以前聴いた西沢立衛氏のレクチャーを思い出した。 関東大震災後、歴史上何度も津波に襲われている地域の地層を調べると ある周期で人骨が発掘されたという。 つまりそれが何を指し示しているかというと、どんなに自然災害が起ころうとも 人は海と離れられない生き物なのだということを西沢氏は述べていた。

同様に人は柱を立てることで空(神様)に近づこうとする、 DNAに刻まれた本能的側面があるとされている。 都市には単純に人口密度と土地制限の理由だけではなくそういった人間の本能が表れているのだとしたら、 いつかまたバーティカルへの揺り戻しが時代の節目と共に訪れると私は考えている。 その時に今の都市がどうふるまうべきかは今後別の場所で議論すべきトピックとして 備忘録的にここに記しておきたい。

また、先述した守屋氏の小さな再開発や、遠藤氏の中規模開発の話は 当然ながらコロナ以前からされている活動や議論である。 それが2020年のコロナ禍における空間の要請と期せずしてマッチしたかのように思えるが、 決して偶然ではなくなるべくしてなったと私は感じている。 例えば、規制緩和により飲食店が占用許可なしに道路にテラス席を設けることができるようになる等、 コロナによって必ずしも風景はネガティブになっていない側面もあり、 建築界隈では以前から渇望されていた風景でもある。 このように今後関東組の言う中小規模開発の増加に伴い法規的側面も整備されていくのであれば 2020年が建築にとっての大きな変曲点と言える年になる可能性は大いにあると思っているし、 関東組の活動も加速度的に飛躍していくであろう。

<多拠点ということ>
「人間には、いくつもの顔がある。―私たちは、このことをまず肯定しよう。 相手次第で、自然とさまざまな自分になる。それは少しも後ろめたいことではない。 どこに行ってもオレはオレでは、面倒くさがられるだけで、コミュニケーションは成立しない。 だからこそ、人間は決して唯一無二の「(分割不可能な)個人 individual」ではない。複数の「(分割可能 な)dividual」である。」 これは小説家平野啓一郎の著書(私とは何か 「個人」から「分人」へ)の一節であるが、 彼の分人主義は自己が所属する多数のコミュニティにおいて、 自分はそれぞれに異なった顔があるということを肯定してあげると世の中生きやすくなる、 つまり様々な距離感を実装することが結果自己アイデンティティの保守に繋がる という主旨だと私は理解している。 これと同じことが建築活動における拠点数の話、引いては建築家の作家性といった類にも 言えるのではないかと思っており、 ワークプレイスを複数持つことや多拠点であること、そして複数の団体に所属することが 今後の時代の変化に埋もれずに対応しうるひとつの方法なのだとミーティングを聞いていて思わされた。 これは決して九州組の単一拠点を否定する意味ではない。 今回登壇した大分の尾垣氏、熊本のsower、福岡の中野氏のように、 地場に根ざした活動を先鋭化していくことが九州ローカルの独自の建築文化を生み出していることも 事実であり、葉祥栄氏や塩塚隆生氏等の例を見れば明らかである。 しかしながら、守屋氏や勝亦氏のように関東の経済圏で多拠点を成立させることが 九州においても同様のこと、例えば九州経済圏の起点となる博多と大分の2拠点でも可能なのかは 議論の余地がないだろうか。 余談だが私も東京にて個人の設計活動とは別に内装デザイン会社に所属している。 理由としてはそこには建築にないポピュラリティが確実に存在すると思っており、 両者が容易には相容れないということも承知の上で 敢えて自分を外部化(=分人化)したいと思ったからである。 仮に中谷礼仁氏の言葉を借りるのであればセヴェラルなツリーを形成していると表現できるのかもしれず、 そこに重合したセミラティスとして予期せぬ結節点が生まれることを期待している。 また、守屋氏のようにいくつもの草鞋を履きこなすテクニックがあることが前提ではあるが、 草鞋が多い程リターンというかそこに芳醇な実が実る可能性も高くなるのではないか ということを考えさせられた。

<物理的距離 / 精神的距離>

勝亦氏の富士市における半径20kmの活動圏と東京北東部の半径500mの活動圏の

距離感は同じだという話はとても興味深かった。 これは車と徒歩の移動時間が同じだということに起因しているのはもちろんだが、 物理的距離に反比例するように精神的距離が自然とチューニングされているからだとも私は理解した。 つまり距離感とは物理的距離と精神的距離の積であり、 彼の言う同じとは双方の積が同量ということなのではないかと反芻しつつ考えている。 このレビューを書いている最中で第二回のキックオフミーティングが催され、 モデレーターの中野氏より距離感は伸び縮みする概念ではないかという総括が提示されたが、 まさにこれは精神的距離の変動による伸縮ということに他ならないのではないだろうか。 更にミーティングの序盤、なかなか現場の空気が温まらない中で 児玉氏より各々が感じる心地よい距離感とは?という質問が投げかけられた。 それに対し、いの一番に尾垣氏が遠景の山や雲に思いを馳せる時の距離感だと答えたのだが 私はそこに非常に共感した。
つまり視野内での物理的距離が極大な事物との精神的距離が 一瞬にして縮まった時が心地よいと彼は言っているのだろうが、 思い返せば私も昔から物理的距離と精神的距離のコントラストが大きい程心地よいと感じる癖があり、 心地よい距離感は設計する上で他者(クライアント、施工業者、批評者etc.)と接続しうる とても重要なファクターだと再認識した。 重たい質問ではあったが同時に本質的な質問でもあるが故に、 各々が言語化して持っておく必要がある気がしている。

建築を設計することは距離感を設計することとほぼ同義なくらい、 我々は普段からスケールや素材、平面断面方向の操作等で距離感を扱っている。 それ故、殊更距離感について語る難しさというのは今回あったように思える。 異種格闘技的な場であれば尚のことである。 今後コロナに伴う空間の要請に設計で応答することは当然だし、 そこから新たに生まれてくる価値もあるだろう。 とはいえ、先立つ様々な諸問題や根本的な建築の在り方を決してコロナの問題に横滑りさせることなく 同時に扱ってくことが我々建築家と名乗る人種の責務でもあり、 プレイヤーとして生き残る術ではないだろうか。 という話は自戒も込め、私も今回のU40の展示で表現を試みようとしている。 僭越ではあるが続きは展示をご覧になっていただきたいという 私個人の宣伝を末筆として締めさせていただく。

KENYAMADAATELIER 山田健太朗

​執筆者 

山田 健太朗 (KENTARO YAMADA)

1986 大分県生まれ

2005 大分県立佐伯鶴城高等学校卒業

2010 北九州市立大学国際環境工学部環境空間デザイン学科卒業

2012 北九州市立大学大学院国際環境工学研究科環境工学専攻修了

2012-2017 平田晃久建築設計事務所/塚田修大建築設計事務所

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